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発熱外来雑感

[2023.12.22]

コロナで発熱外来が設置され、一般の患者さんと動線を分けた診察が始まったことで、保守的だった外来診療のスタイルにある種のパラダイムシフトが起こったと思います。当初言われていたのは診療のオンライン化ですが、これは思ったほどは広まらず、当院でも一時取り組みかけていたのですが需要がなかったため現在は休止してしまいました。それよりも、電話による遠隔診療の頻度は高くなったと思います。

発熱外来となるとかかりつけの方だけではなく、普段かかっていない方も多数受診されるため、コミュニケーションの取りづらさがどうしてもあるわけですが、私がある種のパラダイムシフトだと思っているのは、「医師とのコミュニケーションは必要最低限でいい」と思っている人が増えているように思えることです。

最近コンビニに行くと、店員さんがいるのに一言も話さず買い物が終わる場面が多いですが、それに少し近づいている感覚です。

実際に新型コロナとインフルエンザ、単なる風邪は症状では見分けがつかず、検査をしないと見分けがつかないので、検査に頼るのはある程度やむを得ません。ただしそれが高じて患者さんの方で「もっといい検査をして欲しい」と検査法を指定してきたり、薬を指定してくる人がしばしばいます。

新型コロナについて言えば、PCR検査の方が感度が高いため、抗原検査やNEAR法などで検査を出そうとすると「PCR検査でないと嫌」という人が結構いました。確かに感度だけで言えばそうなのですがで、PCR検査には「結果がわかるのが翌日以降」という弱点があります。新型コロナは発症2,3日前から他人にうつす感染力が生じ、発症1日以内に感染力がピークになるため、検査結果が早期にわかる抗原検査は感染を広げないためのツールとしてはより有用です。コストも安く複数回できますし、自宅でやることもできます。

日本の感染対策の失敗はPCR検査を重視し過ぎたから、という意見もあります。流行初期の頃、「日本人全員にコロナ検査をやるべき」と主張していた科学者の集まりがあり、当時からその主張のあまりの荒唐無稽さに呆れていました。諸外国の結果を見ればいかにこれがいかにコスト配分の悪い主張だったかが改めて分かると思います。

話を戻しますが、このように臨床検査にはそれぞれメリットとデメリットがあり、それを踏まえて最適な検査を選択すべきです。抗原検査がごく初期の感染を反映しにくいのは確かですが、検査のタイミングを少し後にずらすか複数回検査すれば良い話ですし、接触歴などの状況による感染リスクの判断も有用です。しかしこのようなことより「感度がいい検査」にこだわって「PCR検査でないと嫌」という人は、誰かから聞いた「抗原検査はあてにならない」という話を信じていて、それ以上の情報を得ようとしていないのだと思います。

ところでこの「嫌」って何なんでしょうか。医療側は結局黙って仰せの通りにやることが多いとは思いますが、この「嫌」も実はディスコミュニケーションの一因です。

それ以外にも、「インフルエンザの薬はこれでないと嫌」という人とか、「胸が痛いのでCT検査をして欲しい」という人は、もはや医師の診察や判断など割とどうでもよく、自分がわかるものをやって欲しいという人だと思います。まさにコンビニ感覚です。発熱外来ではこういうディスコミュケーション状態のままで診療が終わってしまうことが結構あります。さらにコミュニケーションを省略するために、薬も多めに、色々処方されてしまう傾向が、全てではないにしろ一部には確実にあると思います。(現在は薬不足なので多少減ったとは思います)

その結果、本来は必要ない薬が処方されることもしばしばです。そして、それを処方された患者さんは、「風邪には抗生物質が必要」「風邪は咳止めや痰切りがないと治らない」などといった間違いを解消されることなく、次に風邪をひいた時にまた他の医者に同じ要求をするという連鎖を繰り返すことになります。

現在咳止め不足で大変な状況ですが、そもそもそれまで不要な咳止めも結構処方されていたということに留意する必要があります。

ということでコロナ禍が医療にプラスだったかどうかというと、結局マイナスだった、というのがこれまでの実感です。まあ風邪程度の話なのでこのぐらいで済んでいますが、できれば発熱外来に限った話にしてほしいと思います。

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