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咳止めと漢方が足りない

[2023.12.21]

すでにメディアなどで報道されているように、全国的に咳止めが不足しています。

今の季節はそもそも風邪にかかる人も多いし、コロナの後遺症で咳が続く、喘息で咳が出るなどで咳止めの需要が増加している状況でこの不足はかなり痛く、クレームが出ることもしばしばです。しかもこれはごく短期的なものでもなく、秋頃からずっと足りないか全くないぐらいの状況が続いています。

お医者さんにしても、咳で辛い患者さんを前にして「咳止めはありません」というのは忍びないため、必然的に漢方の咳止め処方が多くの医療機関で処方されることになります。そのため、麦門冬湯や麻杏甘石湯などの漢方エキス製剤は早々に出荷制限となり、注文しても入荷しない状況が続いています。最近では参蘇飲など、漢方の先生以外はそれほど使われなかった方剤まで出荷制限となっているようです。

こちらとしては、漢方薬までなくなってしまうとさらに困るのですが、漢方を使う人が増えるのはいいことかもしれません。

しかし残念なことに明らかな誤用をよく見かけます。これでは、服用した人が「漢方ってやっぱり効かないね」となってしまいそうで、それはそれで心配です。

一番多い誤用パターンは、寒熱の判断の間違いです。漢方専門の看板を挙げている所でも間違うぐらい、基本的な所でありながら間違いやすい所で、とくに咳のように寒熱の判断を間違うと効かないような症状については、本来細心の注意を払うべき所ですが、「咳にはこの漢方」という感じで処方されていることがとても多いです。

例えば「インフルエンザには麻黄湯」みたいな話が医師向けメディアに出回ってしまったため、高熱の人に麻黄湯が5日分ぐらい処方されていることがしばしばありますが、麻黄湯の目標は「脈浮緊、発熱悪風寒、無汗」なので、高熱で汗をかいている状態の人にはすでに適応がありません。事実、そういう処方をされた人がよくならずに後日また受診したりしています。せめて柴葛解肌湯ぐらいにすればいいのに…という所です。

風邪の症状は変化していくものであり、古方中心の日本の漢方エキス製剤で、1種類の方剤で風邪症状を全部カバーするというのは無理があると個人的には思っています。漢方で1種類だけ処方するとしたら、以前の職場で煎じ薬で出していた感冒湯のように大きな処方で、色々な症状をカバーするような発想の方がいいと思います。ただし感冒湯は保険での処方に制約があります。

ということで現状、咳に対する薬がかなり限られてしまいます。病院に行っても咳止めがないため不安に思われる方も多いと思いますが、風邪はウイルス性の上気道炎であり、上気道炎が消退すれば咳もおさまります。多くの場合咳止めはそこまで必要ではありません。痰が出るとのことで去痰剤を処方することも多いですが、去痰剤についても議論があり、良く出される薬が実は最善のものとは言い切れなかったりします。つまり、必ずしも必要なものでもないということです。

コロナの後遺症の咳や喘息の咳に対しては、本当は咳止めがあった方がいいと思いますが、なかなかありません。薬膳的に食べるものに気をつける、過労をさける、加湿器を使う、タバコを吸っている人はやめる、ストレスを避ける…などに気をつける必要もあると思います。また、この場合はまだ品切れになっていないマイナーな方剤で比較的有効なものもあるかもしれないので、使ってみてもよいかもしれません。

また、コロナで世間が騒いでいたころは、人前で咳をすると白い目で見られるため、咳を抑えたい、という理由で咳止めを希望する人が結構いましたが、世間の空気も変わってきました。自分がつらければ咳止めは本当はやはりあった方がいいですが、人目を気にして咳止めを服用する必要は今ではそれほどないと考えています。

咳止めがないとのことで、「どうせ咳止めがもらえないんだったら行ってもしょうがない」と受診をやめてしまう人もいるかもしれませんが、咳止め以外の薬が奏功する場合もあるので、咳が長引く場合にはやはり一度病院を受診することをおすすめします。

ところで、咳止めが足りなくて漢方もつられて不足、という以外にも、抑肝散や桔梗湯などがやはり入荷せず、こちらも困っています。原材料をかなり中国に依存している漢方の生薬業界にはそもそも潜在的リスクがありますが、リスクが相当程度顕在化しない限り対応のしようがない、というのが現状のようです。

 

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