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アスパルテームの発癌性

[2023.07.06]

WHO傘下のがん研究機関(IARC)が、人工甘味料アスパルテームの発癌性をIARC発がん性リスク一覧に掲載予定(グループ2B:ヒトに対して発がん性がある可能性がある:Possibly carcinogenic to humans)としたということでネットで話題になっていました。

これについて、比較的詳しい記事としてロイターの記事があります。

英語記事ですが、DEEPLで翻訳すると結構正確な日本語で読めます。日本語の記事ではフォーブスの記事が良いです。

これに対し国際甘味料協会は、「アスパルテームはこれまで最も徹底的に安全性が検証されたものの一つ。」と反論しています。

アスパルテームの毒性については、体内で代謝され一部が毒性の強いメタノールになることや、同じく代謝産物であるフェニルアラニンの生物毒性などの懸念が以前からあり、以前より安全性が繰り返し検証されてきました。

よく参照されているものに欧州食品安全機関のレポートがあります。

また一方で、ネットでアスパルテームについて検索すると、危険性についての記事もたくさん出てきますし、危険性について警鐘を鳴らす本も出ています。こういった情報に詳しい方はかなり以前より気をつけて摂取しないようにされているかもしれません。

人工甘味料が体に悪いと言えば、昔の人はサッカリンやチクロなどの使用が中止された添加物を思い出すでしょう。

甘味は人間にとって味覚の基本であり、そのフェイクものについて何となく訝しく思ってしまうのが我々の直観です。実際に安全性に?マークがついた人口甘味料も過去いくつか存在しており、アスパルテーム以外の人工甘味料についても、さまざまな安全性の懸念が指摘されています。

アスパルテームはこれまでの経緯で安全性が繰り返し保証されてきたため、かなり色々な食品に使用されています。日頃知らないうちにアスパルテームを摂取していたということは往々にしてありそうです。

IARCリストの「グループ2B」がどの程度リスクが高いのかについては、定義があります。

このカテゴリーは一般的に、発がん性評価のワーキンググループが下した評価が、以下のうちいずれか1つのみを含む場合に適用される。
・ヒトにおいて「発がん性の限定的な証拠」がある
・実験動物において「発がん性の十分な証拠」がある
・「作用因子が発がん性物質の重要な特性を示す有力な証拠」がある

このカテゴリーは、暴露を受けたヒトまたはヒトの細胞もしくは組織への有力な作用機序の証拠については要求されず、実験動物を用いた発がん性試験のみに由来する証拠や、実験系において「作用因子が発がん性物質の重要な特性を示す有力な証拠」だけで適用される。
グループ2A同様、「実験動物における発がん性の作用機序がヒトでは作用しないという有すべて力な証拠」が1つ以上の腫瘍部位で存在する場合は、追加の検討を行う。具体的には、全体としてグループ2Bに区分するために、残りの腫瘍部位が、「実験動物における十分な証拠」として評価できるか検討する必要がある。

同じ2Bグループに属する物質群についてはwikipediaに一覧があります。これらのものをすべて避けて生きるのは困難でしょう。

リストを見てわかるのは、アスパルテームよりも加工肉やアルコール、中国の塩漬け魚、美容・理容従事、交代勤務などの方がグループが上、つまりよりリスクが高いと考えられているということです。これらのものをすべて定量的に並列に評価するのはそもそも困難な気もしますが。

私たちの身の回りには多量に暴露または摂取することで毒性を発揮するものがかなりたくさんあります。

重要なのは、その毒性を理解し適切に使用することです。「毒である」という言葉に恐れて一切そうしたものを避ける多大な労力は、かなりの不自由な生活とストレスを生み、それもまた健康によくないという皮肉な結果を生みます。

アスパルテームの毒性については現在の所、そこまで強いものではないという認識、というのが全体的な評価になると思いますが、それでもアスパルテームを避けた方がよいと思う理由も一方であります。

①臨床試験において、アスパルテーム摂取量の多い人については、がんのリスクが若干上がるという報告が確かにある。

②避けようと思えば比較的避けやすい食品であること。例えれば、「米は毒だから食べるな」と言われても日本人には無理ですが、人工甘味料なら避けるのはまだ比較的簡単です。

③ダイエットにならない。人工甘味料の甘さに慣れてしまうと結局甘いものに依存した生活を変えられない。比べれば、普通の砂糖を使ったお菓子や飲料の方が確実に美味しいです。色々理由をつけて普通の甘いものを食べたくなってしまうのが人情でしょう。現に人工甘味料がダイエットにならないという報告は色々出ています。

④食品であるため毒性評価はより慎重に行うべきである。医薬品と違って数十年間毎日摂取する可能性もありますから、毒性は低かったとしても毎日食べない、あまり食べ過ぎないなどの注意は必要でしょう。

⑤食育という点での問題。正しい味覚の育成には添加物をできるだけ使わない方がよく、できれば手作りの味がのぞましいでしょう。健康問題に比べれば重要度が低そうにみえますが、実はかなり大事な問題です。

 

さてさらに一方、病気の多くは現在の所、発症する原因がよくわからないというものが大部分です。

自分が病気になった時、病気の原因を何かに求める気持ちは誰もが抱くものだと思います。

しかし一部の病気を除き、原因が分からないことは珍しくありません。

ちょうどそういう時に、天からの声が聞こえてくることがあります。「原因は〇〇だ!」

その声に納得できてしまうと、何もかもが、〇〇によるものであると思えてきますし、ネット検索をしても、医学論文を検索しても、自説に都合のよい話しか出てこなくなります。それは、そういう読み方をしているからそうなるというものです。

ネットで出てくるアスパルテーム危険説の中には、この思考パターンにはまってしまっているようなものも散見されます。

「毒」という概念はものごとを簡単に説明するための甘い誘惑(甘味料だけに…)となる可能性があります。しかしそれは、真実を必ずしも反映しません。

「万病一毒説」を唱えた江戸時代の漢方医・吉益東洞氏については色々な評価があり、かならずしもトンデモな人というわけではないのですが、現代に生まれていたら船瀬俊介氏のような環境ジャーナリズムに走ってホメオパチーとかやっていないかな…ということをうっかり考えるとその筋の人に袋叩きに合いそうなので、今回はこのぐらいで終わりにします。

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