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「発熱の子供を病院に連れて行かないのは虐待」か

[2023.10.23]

知人の知人ぐらいの話なのですが、最近お子さんが40度の熱を出したとのことで、3日ほど経ってやっと病院に行きインフルエンザと診断されたとのこと。

その話を周囲にした所「子供が熱を出しているのに病院に連れて行かないというのは虐待だ」と言われたようです。

日本は医療アクセスがよいため風邪程度の症状で医療機関を受診することも多いですが、欧米では医療保険制度の違いなどにより、風邪くらいでは受診しないという国も多いです。というか、日本の方がむしろ例外的だと思います。

欧米の子も日本の子も同じようにインフルエンザ(高熱の出る風邪症状が出現)にかかるわけで、違いはないのですが、日本では病院に連れて行かないと「虐待」とまで言われてしまう状況があるようです。ちなみに抗インフルエンザ薬のタミフルは、日本での使用量が突出して多いことが知られており、薬の使い過ぎによる耐性ウイルスの出現は以前より懸念されてきました。

現在の所日本において耐性株はそこまで問題にはなっていません。日本感染症学会も「少数でも健常者で重症化する人がいるので、できるだけ抗インフルエンザ薬は使った方がいい」という見解です。しかし、インフルエンザの重症化率はそもそも低く、この提言が費用対効果や耐性株出現リスクなどを十分に考慮した上で出たものなのかがわかりません(十分検討されたものだったとしたらすみません)。感染症学会の提言は他にも色々出ていますが、たまに「?」というものもあり、あくまで提言であることに留意する必要があります。

冒頭の話に戻ると、40度の熱のお子さんを病院に連れていくべきかどうか?については、お子さんの年齢と随伴する症状によると思います。40度となると大人でも辛いような高熱ですが、お子さんの場合かなりの高熱でも元気ということはままあります。

一見元気そうでも急に容体が変化することがあるのが子供です。そのため、熱が出たら必ず病院に連れていく、という親御さんもいらっしゃる一方で、熱や咳などは治癒機転として出ているものであり薬で抑えるべきではないとして、あえて病院に行かないという考えの方もいらっしゃるでしょう。さらには少数ながら、豆腐パスターとか大根湯などを試みる自然派の方もいらっしゃるかもしれません。このことはそれぞれの親御さんの考えによるものであり、ある程度は尊重されるべきと思います。

色々なお子さんのお薬手帳を見ていると、しょっちゅう病院に行っているお子さんが飲んでいるお薬が分かります。抗生物質などは割と頻繁に出されています。お子さんの風邪には抗生物質が必要なこともあると思うので難しいですが、その中のいくつかはもしかして必要がないものだったかもしれません。風邪はウイルス感染であり、基本は抗生物質はいらないからです。その抗生物質が必要だったのか本当は不要だったのかはまず検証されませんが、不要な薬は飲まない方がよいというのは当然のことです。

そのようにしょっちゅう病院に通っていたお子さんが大人になり親になると、「風邪をひいたら病院で薬をもらうのが普通」「私の風邪は長引くので抗生物質を飲まないと効かない(実際には自然治癒の時期と抗生物質を服用していた時期が一致しただけ)」といった経験が自分の中で常識となっており、おそらくお子さんが風邪をひいたらすぐに病院に行かせるでしょう。そのことが悪いというわけでは決してありませんが、かならず良いことばかりでもないということも言えると思います。

熱の出たお子さんをすぐに病院に連れていくか行かないか、ということ以上に、お子さんが脱水にならないよう注意し、食事がとれているか、元気があるか、意識がはっきりしているか、他におかしい所はないかなどを観察することはより重要で、「これはやはりおかしい」と判断したらすぐに病院に連れていくことは非常に大事だと思いますが、この「判断をする」という部分で責任を負うことになります。そのため、ここを人任せにしてしまう、誰かに言われた通りにしてしまう、とりあえず病院に行ってしまうなどで観察する力をアウトソーシングしてしまう向きもあると思いますが、個人的には少し勿体ない気もします。

熱の出た子供をすぐに病院に行かせなかった親御さんはもしかすると、この観察をした上で判断してのことだったかもしれず、そうなるとそれが「虐待」というのは、さすがに言い過ぎではないか、と思いますが、自身の過去の体験や熱が出て苦しそうな子供のイメージなどがあるため、「虐待」と言う人のマインドを変えるのも難しそうです。

ひとつ言えることは、私が子供の頃は抗インフルエンザ薬も抗原検査も存在せず、インフルエンザには毎年多数の人がかかっていましたが、大半は数日で治癒するものでした。私自身も一度かかりましたが同様の経過でした。また、去年コロナに感染してしまいましたが、解熱剤や咳止めは使わず、前半のみ漢方薬を飲んであとは寝て治しました。「それでも何とかなる」という体感的なものは、こうした経験で身についている所もあると思っています。

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