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減薬(今回はほぼ与太話です)

[2025.01.12]

最近youtubeである女性芸能人の死の経緯について触れている動画を見ました。

その芸能人の名前は伏せますが、数年前に亡くなり、これについて自殺の可能性があると考えられているようです。

もともと精神的に不安定で向精神薬を服用していたとのうわさがあり、その上に仕事のストレスや男女関係のトラブルなどが重なったことが自殺の原因と考えられているようです。ただし本当の所はわかりません。動画で語られていることもどこまでが本当なのかという感じです。

しかし私が個人的に引っかかった所は、当時の彼氏が彼女の服用していた向精神薬の減薬に協力的で、減薬の計画表も作っていたとされていたということです。彼氏は勿論善意でやったと思うのですが、

医者でもないのに?

というのが正直な所です。

(いえ、もしかして精神科の主治医が減薬に積極的な人で、彼氏が主治医の指示通りに計画表を作った、という可能性もあるのかもしれませんが、経験的にその可能性はやや考えにくいです。もしくは精神科の減薬専門医なるものももしかしてあるのかもしれませんが、その中にはいい先生もそうでない先生もいる可能性があります。医師という職業は基本的に憎まれ役です。その憎まれ役部分を負わない、カッコいい減薬専門医は一見すべての問題を解決してくれるようにみえるかもしれませんが、それならどうして世界中で多くの人が向精神薬を服用しているのかを考えれば、そんなことはないとい理解できるでしょう)

計画表、というあたりで「ネットで拾ってきた某減薬マニュアル」などに従ってやった可能性まで考えてしまいました。某マニュアルの減薬法ですんなり減薬できて調子がいいという人もいるのかもしれませんが、個人的に万人に適したやり方ではないと考えています。そもそも向精神薬の減量にそんなに設計主義的な発想でいいんでしょうか?と思ってしまっているぐらいです(あくまで個人の意見です)。

向精神薬はよくないと世間で広く認知されています。自分の彼氏や彼女が精神科に通って色々な向精神薬を飲んでいる姿をみれば心配になるかもしれません。その割に調子が良くなさそうなのを見れば、「薬のせいではないか」「薬をやめた方が調子がよくなるのではないか」「薬をのまない健康状態に早く戻してあげなければ」などと考えてしまうのはむしろ普通のこととも言えるでしょう。ネットで検索すると、向精神薬の副作用に苦しんでいる人のSNSやブログがたくさんあります。

ならば精神科の主治医に相談して減薬してもらえばいいのではないか、と思っても、多くの精神科外来の担当医はあまり減薬に積極的でなさそうに見えます。薬を減らさない理由も大して説明してくれません。そのことが医師への不信感につながり、「患者を薬漬けにしようとしているのではないか」「減薬を試みないのは医師の怠慢ではないか」という思いにつながっていきます。

以前の記事で、「降圧薬は医師と製薬会社の儲けのための陰謀だから血圧は下げるな」系の主張をするメディアの医師が賞賛されることについて書きましたが、これと似た心理が働いているようにも見えます。

確かに多くの精神科の医師はあまり説明もしないし薬も減らしてくれませんが、それは彼らが言語で説明できない直観的なものも含めてそう判断しているということです。この判断を説明しようと思ったらそれだけでかなりの時間がかかり、しかも患者さんに理解されるとは限りません。精神の疾患は回復に長い時間がかかります。そして薬など、本当はそこまでの力を持っていません。小手先で薬を変えるのではなく患者さんがみずから変わっていく過程を、彼らは静かに観察しているのです。中には臆病で怠慢な医師もいるかもしれませんが、すべての医師がそうとは限りません。

向精神薬は確かに長期服用でさまざまな副作用を引き起こします。

副作用に苦しむ人が多くいることを分かった上で、それでもやはり安易な向精神薬の減薬は時としてより深刻な副作用を生んでしまうということは、もっと知られてよいことではないかと思います。私は精神科医ではないのですが、それでも内科で抗不安薬などを処方することはあります。抗不安薬の少量服用で長年調子が安定していた人が、半年以上かけて抗不安薬を中止ししばらく問題なかったのに、数か月で急に不安定になってしまったということは個人的にも経験があり、減薬の怖さは実感としてあります。

精神科の薬を長期服用して安定しているとそれはそれで、「もうやめてもいいのではないか」「こんなに精神的に安定しているのだからもう私は健康なのだ。この状態で薬を飲み続ければいずれ薬害に苦しむことになる」などと考えるのもまた自然なことなのかもしれませんが、それは生活が平穏な時期だから安定しているということもあります。人生は山あり谷ありで、どんな人でも、不幸な出来事が起こったりトラブルにあったり、平穏な生活が乱されるイベントはどこかで起こります。そうなった時の心の予備力みたいなものがどの程度あるかを考えた時に、一見落ち着いていることでその点が正しく見積もられていないということは減薬の際のリスク要因です。

動画の女性芸能人の方は若く美しい方でした。しかも、芸能人は自立した強さを求められる職業です。そんな輝いて素敵な存在であるはずの自分が向精神薬に頼っているということで、自分の心の弱さが許せない、という思いが生まれたかもしれません。例えば「薬を飲んでいる自分が嫌い→薬を飲まない、なぜなら私は十分強いから」という思考になっていった場合、これも減薬のリスク要因、というよりは怠薬なので傍から見ているとちょっと怖い状況です。

しかし周囲が「向精神薬をやめるのは偉い」のような態度で接してしまうと、「薬を飲む=悪いこと、やめる=いいこと」という思考が本人にできてしまい、結果、自分の精神的な調子よりも薬の減量が優先されるという本末転倒な状況になりかねません。まして、減薬計画表を作っているのは愛する彼氏です。多少調子が悪くても頑張らないと…ともなりかねないと思うのは私だけでしょうか。

若くて美しいなんて、私のようなただのおばさんにとっては羨ましい限りですが、若いということはそれだけ傷つきやすく脆いということでもあります。芸能界は相当ハードな世界のようですし、何より男女関係のトラブルは、場合によっては心にかなり深い傷を与えてしまうでしょう。

(ちょっと話が逸れるのですが精神疾患の方で、あまり恋愛経験がないという方を時々見ます。それには色々な原因があるのかもしれませんが、結果としてそのことが、その方ご本人を守っているのではないかと思える時があります。反対に精神的にかなり不安定なのに恋愛を繰り返したり男女関係に奔放だったりすると、そのことが新たな問題の種を生んでしまいさらに厄介な状況になっているということをしばしば見ます。)

芸能人の方は多忙で、多方面でご活躍されていました。そのような生活で自己の内面に向き合い、本当に薬がなくてもよい状態になるまで自分の問題と取り組むことができたのかというと、一般的に言ってとても難しいのではないかと思います。米国のように専属のカウンセラーがいればまだいいのかもしれませんが、日本ではカウンセリングがそこまで普及していません。薬で何とかバランスを保っていた状態で、埋めるものなしに薬をやめてしまったら、状態が悪くなるのは当然のことです。

そのような状態で減薬に取り組み、その上男女関係のトラブルまで抱えてしまいました。

 

今更言っても遅いのですが、彼氏は減薬表を作るのではなく、彼女の話をきちんと聞いてあげて、何なら「精神科の薬に頼ってもいいんだよ、自分はそういう君も好きだよ」と言ってほしかったと思います。

そして、精神的に不調な人にきつい言葉を投げかけることは、時としてその人の命を奪いかねないということは、この彼氏に限らず私たちすべての人が注意すべきことではないかと思います。

 

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