不安が増大させる医療費
イスラエルとハマスとの戦争が続く中、先日人質が解放され、その一人がインタビューに応じていました。
応じたのは85歳の女性。人質の扱いは比較的良かったとの証言(これも本当なのかハマスにそう言わされているだけなのかは不明)でしたが、個人的には85のおばあさんが気丈にもインタビューに答える姿に驚きました。おばあさんは平和活動家だったとのことでメディア慣れしていた可能性もありますが、日本のおばあさんだったら同じようにはできないだろうと思います。人質となり、実際に殺されていた可能性も十分にあったのですから。
日本のメディア報道はなぜか、イスラエルの普通の市民がハマスによってとらわれ、多くの人が惨殺されたという事実を忘れたかのように、「イスラエルの反撃によって多数のパレスチナ人が非人道的な扱いを受け、子供を含む多くの死傷者が出ている」ことを連日大きく扱っています。パレスチナ人がこれまで色々ひどい扱いを受けており、現在も非常に苦しんでいるというのは事実なので、間違いではありません。
イスラエル・パレスチナ問題は非常に厄介で、色々な国や組織の思惑が複雑に交錯しているため、どちらが正義でどちらが悪であるということを言うのは難しい状況ですが、最低限言えることとしては、
①パレスチナ=ハマスではない、ということと、
②ハマスが今回無辜のイスラエル市民を虐殺し、かつパレスチナ人を人間の盾に使っている、ということです。
この点においてどこを非難すべきなのかは明らかです。そして、これまでの経緯を過去に遡って話を展開するときりがなくなるのでやめた方がよいと思います。しかし日本のメディアはそうしません。その理由については色々言われていますがここでは割愛します。
ところで、コロナ禍においてのメディア報道は本当にひどかったと思います。ひたすら恐怖を煽り、わざわざ不安を感じるような演出や数字の見せ方などを駆使して視聴率を取りに行った結果、多くの人が本当に不安になってしまい、それは時に、感染した人に対する差別や自粛警察など、過剰な対策を取らせる結果となりました。新型コロナ感染症がじっさい病気として結構厄介だったことは言うまでもありませんが、もっと冷静な取り上げ方はできたはずです。国がゼロコロナ路線(ゼロになる可能性はそもそもゼロだったが…)をなかなかやめられなかったのも、メディアの空気に押された部分がかなりあったのではないかと思います。
このようなメディアなので、コロナ以外の報道に対する姿勢も推して図るべしなのです。
コロナ禍以前から、日本の健康番組は不安を煽る系のものが結構ありました。
そうした番組が医学に関する知識を得るために有用だった所もあったかもしれませんが、一方でちょっと体調がおかしいとすぐに重い病気ではないかと不安になる人も大量に生んでしまったかもしれません。その不安は、頭の中にあるもので、身体感覚から実感される不安ではありません。
例えば、どこかが痛い、段々痛くなる、腫れてきた気がする、などは身体感覚が訴える赤信号であり、これは医者にかかるべきものですが、テレビをみて頭の中で「私も似た症状がある。〇〇病ではないか」と思った時、その不安は頭が作り出したものであり、ただ身体の声を聞いているだけであれば生まれない不安だと思います。
日本の予防医学は60年代ごろから「生活習慣病の予防」が主なテーマとなり、高血圧や高脂血症などを治療の対象としたわけですが、高血圧も高脂血症も通常はほぼ何の身体感覚も伴わない、厳密には病気の定義に当てはまらないものです。しかもこれらは結果が数値化しやすく、臨床試験のデザインもしやすく、医師が介入しやすいものであったため、瞬く間に広まりました。
つまり数値化しやすく投薬で比較的容易にコントロールできるものがフィーチャーされたということです。ゆえにそれは自己目的化し、メタボ検診などさまざまな政策も生み出しました。さらに検診の推進の理由としての「早期発見」が絶対の善として、あらゆる疾患は早期に発見され、早期に診断されるべきである、という風潮を生み、これが一つにはさらに身体感覚の軽視を生んだのではないかと思います。もはや自分の体調がよいか悪いかなどはさほど大きな問題ではなく、検査の数値や画像診断の結果が大事なのです。
こういう思考にはまった人が病院に行って「何でもないですよ」と言われても納得せず、あちこちの医者にかかったり、色々な検査を受けたりするのですが、医師の言うことよりも検査の結果の方を信頼しているのでまあそうなります。だとすれば、病院というものはもはや不要で、検査だけやってくれる検査機関があればいいということになります。しかし本当にそうなのか?
血圧を下げましょうキャンペーンも、コレステロール啓発運動も、メタボ検診も、早期発見がとにかく大事論も、すべて医師側が広めてきたものです。その結果として、「病院いらない、検査してくれる所があればいい」になってしまったとしたら、これ以上ないほどの皮肉となるでしょう。医師はこのような自己矛盾にたいしてもっと内省的になるべきです。大体自分の言ったことをあとから全く訂正も謝罪もしないのが医師という所もあるため(過去の説明と今言っていることが違う理由を「医学の進歩のため」などと言う)、仕方がないので外部の鋭い人にもっと突っ込んでもらった方がいいかもしれません。
冒頭の話からかなり脱線してしまいましたが、イスラエル問題が書きたかったため(しかし一つの記事にするほどの内容でもなかった)、前半と後半で全く違う内容になってしまいました。話を無理やりこじつけると、
①日本のメディアは信用できないので煽られないように注意しましょう
②命あっての物種、イスラエルのおばあさんのように、細かい不安にあまりこだわりすぎるのはやめましょう
という感じでしょうか…こじつけられなかったか…。まとまりのない文章ですみませんでした。